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12話-1 正式な花嫁候補とご命令。

last update 最終更新日: 2025-04-18 20:00:00

フェリシアはアマリリスを見つめる。

「はい、わたしもエルバート様が好きです」

そう、告白すると、

アマリリスは優しく微笑む。

「ならば、お互い負けられませんわね」

「フェリシア様、お料理にそれぞれ全力を尽くしましょう」

「はい」

その後、しばらくして、フェリシアとアマリリスのビーフシチューが出来上がると、

皿にそれぞれ少し盛り、お互いにスプーンで味見をし、

台所まで来たディアムとエルバートの父の側近にはきちんと盛り付けをして、フェリシア達のビーフシチューをスプーンで食べて完食してもらい、

エルバート達が食べる6皿の毒味もしてもらう。

すると全皿問題ないと判断され、

広間までディアムがフェリシアのビーフシチュー、エルバートの父の側近がアマリリスのビーフシチューを責任を持ってお盆で運び、

エルバート、エルバートの母、エルバートの父のテーブル席にエルバートの父の側近がアマリリスのビーフシチューを一皿ずつお出ししていき、

その後に続いてディアムがフェリシアのビーフシチューを同じようにお出しして、

エルバート達のテーブルにそれぞれ2皿ずつ並ぶ形となった。

「では私から」

エルバートはそう言い、スプーンを持つ。

そんなエルバートの姿を心臓をドキドキさせながら、アマリリスと一緒に見守る。

エルバートはアマリリスのビーフシチューからスプーンで食べ、完食するとスプーンを自身に対し平行にして置き、普段と変わらない冷酷な表情で頷いた。

隣のアマリリスをふと見ると、両目に涙を薄らと浮かべている。

エルバートに初めて自分の料理を食べて貰え、更に完食して貰えたことが余程嬉しかったのだろう。

アマリリスのビーフシューを先程味見したけれど、

とても高貴な味で美味しかった。

だからエルバートも頷くくらい美味しかったに違いない。

そう思っていると、エルバートと一瞬目が合った。

それを合図にエルバートはフェリシアのビーフシチューを新たなスプーンで食べる。

すると、なぜかとても驚いた顔をしたものの、完食し、アマリリスの時と同じようにスプーンを置いてフーッと息を吐いた。

(ご主人さま、美味しくなかったかしら……でも、わたしも完食して貰えたことが、とても嬉しい……)

エルバートの母はエルバートの反応を見て笑うと、

頂きますわと言ってアマリリスのビーフシチューをスプーンで食べ、惚れ惚れしたような表情で完食し、

フェリシアのビーフシチューをじっと見つめた後、新たなスプーンで食べ始める。

するとエルバートと同じようになぜか とても 驚いた顔をし、完食した。

そうして最後にエルバートの父が、頂こうと言い、

アマリリスのビーフシチューをスプーンで食べ始め、完食し深く頷くと、フェリシアのビーフシチューの香りを確かめた後、新たなスプーンで食べ始める。

するとエルバートの父もなぜかとても驚いた顔をし、完食した。

アマリリスの隣でフェリシアはとても驚き、固まる。

一口で終わりかと思っていたのに、おふたりにぜんぶ食べて貰えた。

こうして、最後となる料理作りは終わり、

正式なエルバートの花嫁候補が選ばれる時間となった。

エルバートの父が口を開く。

「これより、正式なエルバートの花嫁候補を発表する」

フェリシアとアマリリスは 祈るような気持ちでエルバートの父の姿を見つめる。

(どうか、お願い――――)

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    「正式な エルバートの 花嫁候補は、アマリリス嬢とする」エルバートの 父のその言葉を聞き、頭が真っ白になった。エルバートは冷酷な表情のまま黙ってエルバートの父をただ見つめる。「フェリシアさん、貴女には最初から最後まで驚かされた」「特に料理のビーフシチューは素晴らしかった」「だが、アマリリス嬢のビーフシチューの方が優れていると判断した」「しかしながら、努力を配慮し」「フェリシアさんには一ヶ月間、ブラン公爵邸にいる事を許す。だが、その後、ブラン公爵邸から出て行って頂くこととする」一ヶ月後は晩夏。つまり一番暑い時期に出て行けと言う。死んでもかまわないといわれたようなもの。エルバートと一ヵ月間一緒にいられるのは嬉しいけれど、(これでは すぐに出て行けと命じられた方が余程マシだわ)「父上! これはやはりフェリシアを追い出す為の口実を作る茶番であったか!」エルバートは叫び、冷ややかな物凄く強い気を放つ。しかし、エルバートの父はその気を無視して話を続ける。「異論は一切認めん」「一ヵ月後にブラン公爵邸にはアマリリス嬢に住んで頂く」その言葉を聞いたエルバートは剣に手を掛ける。いけない。魔もいないこのような場で剣を抜かせてはだめ!「分かりました」「一ヶ月後、ブラン公爵邸から出て行きます」エルバートは驚いて剣から手を放す。「フェリシア、何を」エルバートと初めて出会った日、尽くそうと、勤めを全うするしかない、どんなに嫌な顔をされようともと心を決めていたのに。「ご主人さま、力及ばず、申し訳ありません」フェリシアはそう言って頭を深く下げる。すると近くの教会の鐘の音が聞こえた。フェリシアは頭を上げ、一人、広間から駆け出て行く。悲しいはずなのに涙も出ず、心の痛みも感じない。自分

  • 一通の手紙から始まる花嫁物語。   12話-1 正式な花嫁候補とご命令。

    フェリシアはアマリリスを見つめる。「はい、わたしもエルバート様が好きです」そう、告白すると、アマリリスは優しく微笑む。「ならば、お互い負けられませんわね」「フェリシア様、お料理にそれぞれ全力を尽くしましょう」「はい」その後、しばらくして、フェリシアとアマリリスのビーフシチューが出来上がると、皿にそれぞれ少し盛り、お互いにスプーンで味見をし、台所まで来たディアムとエルバートの父の側近にはきちんと盛り付けをして、フェリシア達のビーフシチューをスプーンで食べて完食してもらい、エルバート達が食べる6皿の毒味もしてもらう。すると全皿問題ないと判断され、広間までディアムがフェリシアのビーフシチュー、エルバートの父の側近がアマリリスのビーフシチューを責任を持ってお盆で運び、エルバート、エルバートの母、エルバートの父のテーブル席にエルバートの父の側近がアマリリスのビーフシチューを一皿ずつお出ししていき、その後に続いてディアムがフェリシアのビーフシチューを同じようにお出しして、エルバート達のテーブルにそれぞれ2皿ずつ並ぶ形となった。「では私から」エルバートはそう言い、スプーンを持つ。そんなエルバートの姿を心臓をドキドキさせながら、アマリリスと一緒に見守る。エルバートはアマリリスのビーフシチューからスプーンで食べ、完食するとスプーンを自身に対し平行にして置き、普段と変わらない冷酷な表情で頷いた。隣のアマリリスをふと見ると、両目に涙を薄らと浮かべている。エルバートに初めて自分の料理を食べて貰え、更に完食して貰えたことが余程嬉しかったのだろう。アマリリスのビーフシューを先程味見したけれど、とても高貴な味で美味しかった。だからエルバートも頷くくらい美味しかったに違いない。そう思っていると、エルバートと一瞬目が合った。それを合図にエルバートはフェリシアのビーフシチューを新たなスプ

  • 一通の手紙から始まる花嫁物語。   11話-2 初めての感情。

    フェリシアは左側から席に着き、ナプキンは2つに折り、輪を手前にして膝にかけて待つ。するとやがてエルバートの母の執事による豪華な肉料理のフルコースが始まり、白ワイン入りグラスは親指から中指の3本で持ち、薬指で固定して飲み、バラの花びらのような生ハムトマトの前菜はナイフとフォークを外側から使い、美しさを楽しむよう、いっぺんに崩さないように左側から少しずつ食べ、クリームスープはスプーンを手前から奥へ動かしてすくい、パンは手で一口大にちぎり、そのパンに少しずつバターをのせて食べ、肉料理である牛フィレのパイ包み焼きは左側の端から食べやすい大きさに切りながら頂き、デザートの華やかなケーキは固かった為、ナイフで切り、食事が終わると、ナイフとフォークを揃え、皿の右下へ置き、ナプキンはテーブルの右側へ無造作に置いて、左側から退席した。こうして、食事マナーも無事に終え、最後の料理作りとなり、フェリシアはアマリリス嬢と共に広間から台所へとエルバートの母の執事に案内され、それぞれビーフシチューを作り始める。ブラン伯爵邸の台所もまた厨房のように広かった。食事マナーを終えた時、エルバートとディアムは見守ってくれていたけれど、エルバートの両親、アマリリス嬢はまたどこか驚いた様子だった。きっと上手く出来ておらず、呆れていたのだろう。そして最後の料理作りは毒や不正が働くのを考慮し、先にディアムとエルバートの父の側近、続いてエルバートとエルバートの母が順に食べ、最後にエルバートの父が食べることになった。だから、(料理を教えてくれたリリーシャさん、そして何よりこのビーフシチューの料理を認めてくれたご主人さまに決して恥をかかせる訳にはいかないわ)そう思っていると、アマリリス嬢が話しかけてきた。「フェリシア様はやはりお料理手慣れていらっしゃるわね」「え?」話しかけられると思っていなかった為、フェリシアは驚く。

  • 一通の手紙から始まる花嫁物語。   11話-1 初めての感情。

    ――そして、まずはエルバートとアマリリス嬢が踊ることとなり、不安げなフェリシアの袖を掴む手に触れ、見えないように優しく下ろすと、エルバートはアマリリス嬢の元に向かう。すると、エルバートの父が広間に軍楽隊を呼び、その弦楽器の美しく優雅な演奏と共にふたりは踊り始める。エルバートの踊る姿を初めて見たけれど、惚けてしまうくらい美しく、かっこいい。それにアマリリス嬢も引けを取らず、エルバートと息がぴったりと合っている。(雲の上のようなおふたり。ほんとうに絵になるわ…………)やがて、アマリリス嬢とエルバートが踊り終え、フェリシアはエルバートの元まで歩いていき、向き合った状態で足を止める。けれど、緊張で足がすくんでしまう。(せっかくクォーツさんにダンスの特訓をしてもらったのに。こんな足でちゃんと踊れるかしら…………)そう、足に目線を向けながら不安に陥った時だった。「……フェリシア、こちらを見ろ」エルバートに小声で話しかけられ、顔を見る。それだけで不安が一瞬にして消えた。「……私がリードする。だから安心して身を任せろ」「……はい」同じように小声で返すと、エルバートが手を差し出す。フェリシアはその手に自分の手を添えた。それを合図にアマリリス嬢の時と同じ軍楽隊による弦楽器の優雅な演奏が始まり、共に踊り始める。そうして少し慣れた頃、エルバートの手が腰に触れ、顔がぐっと近づく。お互いに見つめ合うと、離れ、踊り続ける。ほんの一瞬顔が近づいただけなのに、顔が熱い。(リードするってご主人さまおっしゃっていたけれど、こんなの身が持ちません)そう思いながらも、不思議と嬉しさの方が勝る。

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